公益社団法人知財経営協会

産経新聞でインタビュー記事が連載されました。(第1回:2013/07/01)

特許を腐らせている日本企業 守るのは警察でも弁護士でもない

産経新聞 71()1448分配信

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「知的財産権への意識を高めたい」と力説する玉井誠一郎さん(松永渉平撮影)(写真:産経新聞)

 【新・関西笑談】知財ブランド協会代表 玉井誠一郎さん

 日本が国家戦略として知的財産の創出、保護と活用につとめる「知財立国」を掲げて10年あまり。多数の特許を取得する電機メーカーの業績不振が続くなど知財戦略は十分機能していない。パナソニックで技術開発や知財管理に携わった経験を生かし、企業などの知財管理を行う知財ブランド協会代表の玉井誠一郎さんに、知財と歩んだ人生と日本に必要な戦略を聞いた。(聞き手 宇野貴文)

 --知的財産権はどういう権利なのでしょうか

 玉井 日本国憲法では基本的人権が保障されていますが、それと並ぶぐらい大切な権利です。米国は建国の精神として憲法の第1条で知財の保護をはっきりと宣言しています。知財が侵害されることは、自分の家に忍び込まれるのと同じという感覚ですね。だから、訴訟の仕組みも整っている。産業が疲弊した1980年代の米レーガン政権は、競争力回復のため、知財を保護する施策を進めました。それが功を奏し、技術貿易黒字が大幅に増えたのです。

 --日本は1990年代にバブル経済が崩壊し、代わりに中国や韓国などが力をつけてきました

 玉井 結果、人件費などコストの安い海外に製造拠点を移す産業空洞化が進みました。いわゆる「沈滞の20年」を経て、小泉政権下の日本でも平成14年に「知財立国」を掲げ、「10年後に世界一の知財立国になる」と宣言しました。

 --成果は

 玉井 全然だめです。特許審査や裁判にかかる時間の短縮化、知財高裁の創設といった成果はありますが、日本の知財意識は高くなったとは言えません。その証拠に、日本企業は特許を数多く取得しているのに、活用することなく腐らせてしまっています。

 --何が問題なのでしょうか

 玉井 特許を登録したら安心というのは大間違い。特許を守るのは、警察でも弁護士でも弁理士でもなく、企業自身です。特許取得や裁判の費用はすべて負担しなくてはならない。それに、特許は出願から1年半たつと内容が世界中に公開されます。出願していない国で、ものまねをされても文句は言えないのです。

 --リスクが高いわけですね

 玉井 特許は独占的に自由に実施できる権利とよく誤解されてますが、他社が許可なく実施することをできなくするための「排他権」です。それなのに多くの企業は、すでにある特許を侵害していないかどうかをよく調べもせずに、ポンポンと特許を取得しているんです。

 --特許登録せずに、自社の技術を守る方法はあるのですか

 玉井 景徳鎮の磁器やコカ・コーラのように最終製品に技術の痕跡が残らないものは、登録する必要はありません。私が代表を務める知財ブランド協会では、そうした技術を営業秘密とし、発明した日時を記録・管理するシステムを10月に立ち上げます。これを活用すれば、同じ発明を他社が特許登録しても、自社が先に発明を使っていることを証明し、事業を続けることができる。企業が知財を守り、活用する方法として、海外にも広めようと考えています。

 【プロフィル】玉井誠一郎(たまい・せいいちろう) 昭和23年、松山市生まれ。48年に大阪大大学院工学研究科修了後、松下電器産業(現パナソニック)入社。溶接ロボットなどの研究、半導体の知財管理の統括責任者を務めた。平成20年に定年退職後、大阪大客員教授などを務め、今年1月に知財ブランド協会を設立。現在、10社の企業が加入している。65歳。