公益社団法人知財経営協会

産経新聞でインタビュー記事が連載されました。(第2回:2013/07/02)

特許出願には大きなリスクも 「守秘」登録で賢く管理を

産経新聞 72()154分配信

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知財戦略について積極的に執筆し、「翻訳して海外でも読んでもらいたい」と張り切る玉井誠一郎さん(松永渉平撮影)(写真:産経新聞)

 【新・関西笑談】知財ブランド協会代表 玉井誠一郎さん

 --10月に事業化を目指している知的財産情報管理システムは、発明などの知財を特許化しないで「守秘知財」として管理する点がユニークです

 玉井 守秘知財は不正競争防止法で守ることができるメリットがあります。情報を漏らした人間は刑事罰に問われたり、損害賠償を請求される可能性もあります。このシステムでは、改竄(かいざん)が不可能なタイムスタンプで日時を登録し、先に発明したことの証拠を残せるのです。

 --証拠を残さないと、どういう問題が起きるのですか

 玉井 日本企業は業績不振で人員削減をせざるを得ない状況で、人材が海外に流出しています。これはノウハウの流出を意味しています。流出先の企業にとってみれば、初期開発投資が不要となり、ありがたい話です。しかし、自社が発明した証拠を残しておかなければ、その技術で製品を作られても、文句が言えなくなるのです。

 --日本が「知財立国」を掲げた平成14年ごろから企業も大学も競うように特許を出願していました。ただ、現在は量より質を求めています

 玉井 特許は他社が許可なく実施することをできなくするための「排他権」ですが、これがたくさん生み出されれば、産業界の成長も阻害されます。自分では製品を作らず、特許を実施しないのに、特許を買いあさり、特許侵害訴訟を起こす「パテントトロール」は、企業にとって大きな脅威となっています。

 --特許には、恐ろしい側面があるのですね

 玉井 特許出願すると1年半後には公開される上、登録までに100万円ぐらい必要となります。さらに、特許法に基づいて認可されているにもかかわらず、裁判の結果、無効にされるリスクがあるのです。

 --どうして、そんなことが起きるのでしょうか

 玉井 今の特許審査の仕組みに無理があるからですよ。審査過程で英語だけでなく、ロシア語、ドイツ語など、世界中の文献を網羅できるわけがない。また、審査する側は技術に精通しているとはかぎらないから、文書がそれらしく書かれていたら通ってしまうというのが実情です。だから特許を出願するのならば2つの条件が必要です。裁判費用が負担でき、かつ裁判で勝てることです。

 --そう考えると、中小企業にとって特許出願は大きな負担ですね

 玉井 資金力のない中小企業は特に知財を大切にしないといけません。ドイツがいい参考例です。ドイツには、世界のトップシェアを占める中小企業がたくさんある。中世以来のギルド(職業別組合)の精神が今も息づき、自分のノウハウを伝承していく文化がある。守秘知財をしっかり管理しているからです。

 --守秘知財として登録すると、どんなメリットがあるのですか

 玉井 特許は期限が20年と決まってますが、守秘知財はそうした期間を設けない。登録の対象は企業だけではなく、大学のような研究機関や個人も含まれます。研究機関にとっての『商品』は論文ですが、論文だけでモノは作れない。論文の周辺のノウハウを含めたアカデミックな知財が登録できる。個人の場合なら、資格や技能も登録し、就職などに活用できます。

 --個人の才能も立派な知財なのですね

 玉井 21世紀は個人が知識を武器に大きな組織と対等に戦える時代だと考えています。それは知識が利益の源泉となり、競争の優劣を決める時代です。

(聞き手 宇野貴文)