公益社団法人知財経営協会

産経新聞でインタビュー記事が連載されました。(第5回:2013/07/05)

ハングリー精神不足の日本人 「アベノミクス」だけでは不十分

産経新聞 75()1446分配信

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学会で青色LEDの開発で知られる米カリフォルニア大教授の中村修二さん(右)と=平成17年頃(本人提供)(写真:産経新聞)

 【新・関西笑談】知財ブランド協会代表 玉井誠一郎さん

 --安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で日本は再生できるのでしょうか

 玉井 それだけでは不十分です。日本人は学習能力が高いが、インテリジェンス、いわば未来を読む力が足りない。歴史をさかのぼっても鎌倉幕府は安穏としていたばっかりに、蒙古襲来が起きる事態を予測することができませんでした。

 --未来を読むことは可能なのですか

 玉井 米国では1970年代半ばから30年かけて、土地のような有形資産と知的財産のような無形資産の比率が2対8から、8対2に逆転するという現象が起きました。実は、それ以前に社会学者のピーター・ドラッカー氏は著書『断絶の時代』で、知識社会が到来すると予言していました。肉体的能力は人種によって、大きくは変わらないけれど、知識では差がつきます。知識が価値の源泉となる時代への移行が実現していったのです。

 --パナソニックで製品開発や知的財産の管理をした経験を生かし、現在は知財について大学で講義をしています。今の若者たちを見て、どう感じますか

 玉井 生まれたときから大切に育てられて、もまれていない感じがします。それにバブル期に企業に入社し、今は40代になっている人たちにしても自分の考えを持っていない。ハングリー精神が足りませんね。

 --それは発明の分野でも同じでしょうか

 玉井 高額な装置を与えられ、コンピューターの前でぼぉーっとしているだけでは発明なんて生まれません。私と同郷で、青色発光ダイオード(LED)の製造方法などを発明、開発した中村修二さんは日亜化学工業時代、自分で装置を改造するなど創意工夫を凝らした結果、「404特許」を取得した。韓国や中国の内陸部のハングリー精神はすごいですよ。これでは日本の将来が案じられます。天は自らを助けるものを助けると言います。「もっと知恵を出せ!」と言いたいですね。

 --若者たちの理科離れが深刻だといわれています

 玉井 それを食い止めるには、やはりインセンティブを高めないといけません。すぐれた知財で、大きな成功を得られるんだというモデルケースを生み出すことが必要です。教え方も重要な問題です。私が学生だったころにもいましたが、何年も使い古したノートを講義に使っているような先生ではダメですね。科学の面白さは、教え上手な先生じゃないと伝わりません。

 --今後どんな風に生きてきたいですか

 玉井 インドのヒンズー教は人間の一生を4段階に分けています。学習期間の「学生期」、社会で積極的に働く「家住期」、家を出て森林に住む「林住期」、解脱を求めて一人歩く「遊行期」。私のような団塊の世代は、林住期に入ったといえるでしょう。一番自由で、やりたいことができる最高の期間ですからね。自分の生きた足跡を残したい。1人1人が人生の主役ですから。私にとって、それを実現するための強みが知財なのです。(聞き手 宇野貴文)